はじめに
発達障害(ADHDやASDなど)や心の不調は、子どもの頃に診断され、治療が始まることが一般的です。しかし、これらの疾患は成長しても完全に治るわけではなく、大人になっても治療やケアが必要なケースが少なくありません。
しかし、子どもから大人へと成長する過程で、医療の枠組みやサポート体制、治療の方向性が大きく変化するため、この移行をスムーズに行うことが重要です。
本記事では、発達障害や精神疾患の子どもから大人への移行(移行期医療=トランジション)の課題と対策について解説します。
子どもから大人になると何が変わるのか?
成長に伴い、発達障害や心の不調の治療において、変わらないことと変わることがあります。
変わらないもの
- 症状の特徴(例:ADHDの不注意・衝動性、ASDの対人関係の難しさ)
- 治療薬の種類(服用量は変わる可能性があるが、基本的な治療薬は継続する)
変わるもの
| 項目 | 子ども(児童期・思春期) | 大人(成人期) |
| 医療機関 | 児童精神科 | 成人の精神科 |
| 診察の主体 | 保護者が主に相談 | 本人が主体的に受診 |
| 環境 | 学校での支援が中心 | 職場・社会での適応が求められる |
| 取り組み方 | 周囲のサポートが前提 | 自分で対処法を身につける |
例えば、子どもの頃は親が主導して治療を進めていたのが、大人になると自分自身で病気や対策について考え、治療を継続していくことが求められるようになります。
また、学校では特別支援や配慮を受けられたとしても、大人になると自分で職場や社会の中で配慮を求める必要が出てきます。この変化に適応することが、移行期医療の大きな課題となります。
移行期医療の3つの課題
子どもから大人へと移行する際に、以下の3つの問題が生じることがあります。
医療の移行が進まない
- 子どもの頃から診てもらっていた医師に慣れているため、新しい医療機関に移ることに不安を感じる
- 児童精神科に通い続け、大人向けの治療が受けられないままになる
治療を中断してしまう
- 児童精神科には年齢制限(16~18歳)がある場合が多く、その後の受診先を見つけられずに治療をやめてしまう
- 治療が中断されると、不調が悪化し、再び治療を受けるまでに時間がかかる
環境の急激な変化による混乱
- 新しい医師との関係に慣れるまで時間がかかる
- 学校から社会へ移行する際に、支援が減少し、適応が難しくなる
スムーズに移行するための3つの対策
こうした課題に対処するために、「しっかり移行する」「初診時の引き継ぎを丁寧に行う」「方向性の変化を理解する」の3つのポイントが重要です。
しっかり移行する
- 児童精神科の年齢制限に達する前に、大人の精神科へ移行する準備を始める
- 可能であれば、高校卒業前などに成人精神科の受診を試みる
- 紹介状を用意し、スムーズに引き継げるようにする
初診時にしっかり引き継ぐ
- 紹介状を元に、治療歴や現在の状態を伝える
- 紹介状に書かれていない生活上の困りごとを、補足して伝える
- 本人の希望や不安を新しい医師と共有する
方向性の変化を理解する
- 児童期は保護者が中心だったが、成人期は本人が主体になる
- 学校の支援から、職場や社会での適応に重点が変わる
- 自立に向けた対策を考えながら、必要なサポートを受ける
どのタイミングで移行するべきか?
理論的には中学後半から高校初期に移行準備を始めるのが理想ですが、実際には高校卒業時が最も現実的です。
| 移行のタイミング | 主な理由 |
| 中学後半~高校初期 | 早めに準備をすることで、スムーズな移行が可能 |
| 高校卒業時(最も一般的) | 進学・就職などの環境変化に合わせ、成人精神科に移る |
| 大学卒業時 | 学生生活が終わり、社会に出るタイミングで移行 |
どんな疾患が移行期医療の対象になるか?
発達障害(ADHD・ASDなど)
- 子どもの頃に診断されても、大人になっても支援が必要なケースが多い
- 職場や社会生活での適応を考慮しながら、支援の形を変えていく
不登校・引きこもり
- 思春期に不登校だった人が、そのまま引きこもりの状態に移行することがある
- 子ども向けの支援から、大人向けの支援へ移行する必要がある
うつ病・社会不安障害
- 子どもの頃に精神疾患を抱えていた場合、成人後も継続的な治療が必要なことがある
まとめ
- 発達障害や精神疾患は子どもから大人に成長しても治療が必要な場合がある。
- 移行期医療(トランジション)は、子どもから大人へスムーズに治療を移行するために重要。
- 児童精神科から成人精神科への移行において、環境や治療の主体が大きく変わるため、準備が必要。
- 移行が進まない、治療を中断してしまう、急な変化による混乱などの課題があるため、事前の準備と引き継ぎが大切。
- 高校卒業時が移行の一般的なタイミングであり、紹介状の準備や環境の変化に適応することが求められる。
発達障害や精神疾患のある人が、子どもから大人へとスムーズに移行し、社会の中で適応していくためには、準備とサポートが不可欠です。