双極性障害では、躁状態を繰り返し経験します。
医学的には躁状態を早期に改善することが望ましいとされていますが、当事者の中には「躁状態を抜ける」ことに対して大きな葛藤を感じる人も少なくありません。
躁状態は、当事者にとって単なる「症状」ではなく、特別な充実感や活力をもたらすものでもあります。しかし、躁状態が長引くことによるトラブルや、その後の反動としての強いうつ状態を考えると、治療的には「早めに抜ける」ことが推奨されます。
今回は、この躁状態を抜けることの意味と、その過程で生じる葛藤、そしてそれにどのように向き合うべきかについて考えていきます。

双極性障害(躁うつ病)は、躁状態とうつ状態を周期的に繰り返す精神疾患です。うつ病とは異なり、脳内の神経伝達物質のバランスが極端に変動することで、異常な高揚感(躁状態)と深い抑うつ感(うつ状態)を繰り返します。
双極性障害には主に以下の4つの状態が存在します。
躁状態では、全能感を背景に、過度な活動や会話、浪費、対人トラブルなどが発生しやすくなります。その結果、後々になって後悔するような行動を取ることがあり、場合によっては入院治療が必要になることもあります。
また、躁状態が終わった後の反動として、強いうつ状態に陥るケースも少なくありません。
そのため、医学的には躁状態の早期解決が推奨されます。
躁状態の長期化がもたらすリスクには、以下のようなものがあります。
これらの理由から、躁状態の適切な管理と早期の収束が推奨されるのです。

医学的には躁状態を早めに終わらせることが望ましいものの、当事者にとってはこれが簡単な決断ではありません。多くの場合、躁状態を抜けることに対する強い葛藤が生じます。
その背景には、以下のような心理的な要因があります。
躁状態の間は、普段では考えられないほどの活力やアイデア、社交性を発揮できることが多く、本人にとって非常に充実感のある時間です。しかし、躁状態が終わると、それらがすべて消えてしまいます。この「活動的な自分」を失うことへの喪失感は、当事者にとって大きな葛藤を生みます。
躁状態が終わると、多くの場合、次に訪れるのは「うつ状態」です。
躁の後に来るうつの落差は激しく、活動的だった自分が突然無気力になり、日々が淡々としたものに感じられることがあります。この変化に適応するのは非常に困難であり、「またあの辛い状態に戻るのか」と考えると、躁を終わらせることへの抵抗が生まれます。
最近では、双極性障害についての情報が広まり、「躁状態は短い方が良い」という認識が広がっています。多くの当事者も、理性的には躁を抑えたほうが良いことを理解しています。しかし、「理解」と「実感」の間には大きなギャップがあるため、躁を終わらせることがなかなか受け入れられないというジレンマに陥ります。

かつては、双極性障害の治療といえば、入院による安静と薬物療法が中心でした。しかし、現在では、軽躁状態や安定期の自己管理が重要視されています。具体的な管理方法には以下のようなものがあります。
躁状態を終わらせることは、当事者にとって非常に重い決断です。しかし、それによって得られるメリットも大きいのです。例えば、躁状態後のうつを緩和し、長期的な安定を手に入れることができるという点は、見過ごせません。
近年では、双極性障害を公表している著名人も増えてきています。2024年の紅白歌合戦出演後、有名歌手「こっちのけんと」氏が躁状態を自覚し、長期的な安定を考慮して休養を宣言したことは、現代における双極性障害との向き合い方の新しい形を示しました。
双極性障害において、躁状態を抜けることは医学的には望ましいですが、当事者にとっては大きな葛藤を伴います。自己管理の重要性が高まる中、躁とうつのバランスをとりながら、長期的な安定を目指すことが重要です。
躁を抜ける決断は重いものですが、それがより良い未来につながることを忘れずに、適切な治療とサポートを受けながら進んでいくことが大切です。