【こころの診療所】家事ができないのもうつ病の症状?

「家事ができない」のはうつ病の症状?――見えにくい苦しみとその理解のために

【こころの診療所】家事ができないのもうつ病の症状?

(1)はじめに:うつ病が生活にもたらす影響

うつ病というと、「気分が落ち込む病気」というイメージが一般的かもしれません。しかし実際には、うつ病は心の病というだけでなく、脳や身体の広範囲な機能に影響を及ぼす疾患です。そのため、日常生活におけるさまざまな行動や思考、意欲が大きく低下してしまうのです。

特に、「家事ができない」という状態は、本人にとっても周囲にとっても非常に深刻な問題です。しかしながら、そのつらさは外からは見えにくく、理解されにくいことも少なくありません。

この記事では、「うつ病により家事が困難になるのはなぜか?」という問いに対し、医学的な観点と具体的な事例を交えながら、丁寧に解説していきます。


【こころの診療所】家事ができないのもうつ病の症状?

(2)うつ病とは?脳の不調がもたらす多面的な症状

● うつ病の原因とメカニズム

うつ病は、主に脳内の神経伝達物質――特にセロトニンノルアドレナリンのバランスの乱れによって引き起こされると考えられています。これらの物質は、私たちの気分や意欲、集中力、睡眠などに大きく関わっており、それらが不足すると多方面に不調が生じます。

● 主な症状の分類

うつ病の症状は、大きく分けて以下の三つの領域に現れます。

  • 心の症状:気分の落ち込み、不安感、興味・喜びの喪失、集中力の低下、自己否定感など。
  • 身体の症状:慢性的な疲労感、不眠や過眠、食欲の変化、頭痛や胃の不調など、自律神経の乱れに起因する不調。
  • 行動の変化:人との交流を避けるようになる、表情が乏しくなる、声が小さくなる、動作が遅くなるなど。

これらの症状は、互いに関連し合いながら、本人の生活の質を著しく低下させてしまいます。


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(3)「家事ができない」のはうつ病の一症状です

うつ病の方が「家事ができない」「片付けができない」「料理をする気力が出ない」といった状態に陥るのは、怠けや甘えでは決してありません。そこには、脳の機能低下や精神的・身体的な苦しさが深く関わっているのです。

● 主な背景は3つの機能低下

  1. 思考力・判断力の低下(脳機能の不調)
    家事は、ただ単に手を動かすだけではなく、段取りを組んで複数の工程を同時に考える「実行機能」を要します。うつ病によってこの思考機能が低下すると、「何から手をつけていいかわからない」「途中で何をしていたか忘れてしまう」などの困難が生じます。
  2. 意欲や興味の喪失
    興味を持てず、やる気が湧かないという状態は、うつ病に特有の症状です。「掃除をしなきゃ」と頭では分かっていても、体も心もまったく動かない――このような感覚は、うつ病の患者さんがよく語るつらさの一つです。
  3. 疲労感・倦怠感の増加
    少し動いただけでぐったりしてしまう、あるいは何もしていないのに疲れているという感覚も、うつ病に多く見られます。これは体力の低下というよりも、脳のエネルギー不足による「精神的な疲労感」であり、長時間にわたって持続します。

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(4)実際にどのような家事が難しくなるのか

家事と一言で言っても、その中には様々な要素が含まれています。そして、うつ病による影響はそれぞれの工程に及びます。

● 食事の準備

買い物に行くこと自体がハードルになることがあります。「何を買えばいいか決まらない」「レジに並ぶのが怖い」など、外出そのものが負担です。料理も、食材の管理・調理手順の記憶・片付けと多くの工程があるため、非常に困難に感じられるのです。また、うつ病では食欲も低下することが多く、「作る意味が見いだせない」と感じる方も少なくありません。

● 洗濯や掃除

洗濯も、「洗う→干す→取り込む→畳む→収納」と工程が多く、それぞれに思考と行動が必要です。そのため、どこかで滞ってしまうと全体が回らなくなり、洗濯物が溜まってしまうケースもあります。

掃除や片付けに関しては、「どこから片付ければいいかわからない」「判断がつかない」といった声が多く聞かれます。結果として、部屋が散らかり、さらに気分が落ち込むという悪循環に陥ることがあります。

● 入浴や身だしなみ

意外に思われるかもしれませんが、うつ病では入浴そのものが大きなハードルになります。服を脱ぐ、湯を張る、身体を洗う、着替える、髪を乾かす――こうした一連の行為が「ものすごく大変」に感じられるのです。結果として、何日もお風呂に入れないという状況が続くこともあります。