近年、うつ病に対する理解や啓発は以前よりも大きく進み、職場や学校などでも対応が少しずつ浸透してきました。うつ病に関する情報はネットやメディアでも多く取り上げられ、”こころの病気”として認知が広がったことは大きな前進と言えるでしょう。
しかし一方で、現実には「うつ病=ただ落ち込んでいるだけ」といった誤解がいまだに根強く残っているのも事実です。特に、うつ病によって他者に実害が及んでしまった場合、その背景を理解されず、時に厳しい評価や非難につながることもあります。
今回は、そんな「うつ病が理解されにくい場面」を5つ取り上げ、それぞれの背景や対策について丁寧に見ていきます。
うつ病とは、単なる気分の落ち込みにとどまらず、脳内の神経伝達物質(特にセロトニンなど)のバランスが乱れ、こころと体に様々な症状が現れる病気です。
症状は大きく3つの種類に分けられます。
これらのうち、特に「気分の落ち込み」や「悲しそうな様子」などは比較的理解されやすい傾向にあります。逆に、外からは見えにくい症状や、他者に影響を与えてしまう行動は誤解や反発を生みやすく、理解されにくいものとなっています。
うつ病では、意欲の低下や興味関心の減退により、何もせず長時間横になっていることがあります。初めのうちは「つらそうだ」と理解されても、これが長期にわたると、「怠けているのでは?」という誤解を招きやすくなります。
実際には、うつ病では気分の落ち込みよりも「やる気が出ない」状態の方が長く残る傾向があり、外からはそのつらさが見えづらいのです。

対策としては、自分のできる範囲の行動(たとえば洗い物だけ、ゴミを出すだけでも)を少しでも示し、誠意を見せることが理解への第一歩となります。また、落ち着いて話せるタイミングで、状態や背景を丁寧に説明するのも有効です。
うつ病では特に朝に症状が重くなりがちで、「前日は出勤するつもりだったのに、朝起きたら体が動かない」ということがよくあります。その結果、急な欠勤や遅刻が増え、職場や家庭などで他者に負担がかかることになります。
1〜2回であれば「仕方ない」と受け止められても、これが繰り返されると、周囲の理解は次第に薄れてしまいます。
対策として、症状が継続的に強い場合は無理をせず休職を検討することが重要です。予定外の欠勤を繰り返すより、一定期間しっかり治療に専念した方が、結果的に自他ともにストレスが軽減される可能性があります。
うつ病は「落ち込む」だけでなく、「イライラする」こともある病気です。エネルギーが枯渇している中でストレスに耐えられなくなり、近しい人に対して怒りをぶつけてしまうこともあります。
しかし、たとえ病気の影響だとしても、相手にとっては攻撃と受け取られ、関係性にヒビが入る原因となりがちです。「攻撃されてもなお理解を続ける」ことができる人は限られています。

対策としては、何よりもまず「他者にぶつけない」ことを徹底する必要があります。そのために、安全に感情を発散できる方法(運動、日記、カウンセリングなど)を日常に取り入れることが大切です。また、前もって自分の状態を説明しておくことで、多少の行き違いは緩和できる可能性もあります。
うつ病の人は不安が強くなり、他者に助言を求めることがあります。しかし、同時に「思考の硬直化(頑固さ)」も症状の一つとして現れるため、せっかくの助言を拒んでしまうことも少なくありません。
この「助言を求めるのに聞かない」という矛盾は、助言する側からすると徒労感を覚え、理解や共感を損なう原因になります。
対策として、「今は助言を受け入れる余裕がないけれど、聞いてもらえるだけでもありがたい」という気持ちを事前に伝えておくと、相手の反応が変わるかもしれません。また、受け入れられる範囲だけで構わないので、何か一つでも相手の言葉を肯定する姿勢も、信頼関係を保つ鍵となります。
うつ病では、注意力や集中力が低下することがあります。本人としては必死にその場に集中しようとしていても、外から見ると「やる気がない」「話を聞いていない」と見える場合があります。
とくに仕事や対人の場面でこのような振る舞いが続くと、「誠意がない」と誤解され、信頼を失う可能性もあります。

対策としては、「大事な場面では無理のない範囲で集中する工夫をする」ことです。一方で、すべてに完璧を求めると心身が持たなくなるため、優先順位をつけて対応していくことが現実的です。状態が続く場合は、主治医と相談のうえ、休職や業務の調整も視野に入れるべきでしょう。
うつ病は、表面に出る症状だけでは判断できない、非常に複雑で繊細な病気です。特に、他者に実害が及ぶような症状は、その背景に病気があると理解されにくく、時に関係性を壊してしまうこともあります。
それでも、まずは「他者を傷つけない」ことを最優先に心がけることが、理解を得るための第一歩になります。そして、症状や背景を丁寧に説明し、誠意あるコミュニケーションを重ねていくことが、少しずつ理解の輪を広げる鍵となるでしょう。
うつ病と向き合うすべての人が、少しでも孤独から解放され、安心して日々を過ごせる社会になることを願ってやみません。