日常生活を送る中で、「記憶があいまいになる」
「自分が自分でないように感じる」といった体験をすることがあるかもしれません。
それが一時的なものであれば大きな問題にはならないこともありますが
こうした症状が頻繁に起こり、生活に支障をきたすようになると
「解離性障害」というこころの病気である可能性があります。
今回は、解離性障害の特徴や原因、具体的な症状、治療法
そして回復への道のりについて、わかりやすく丁寧にご紹介します。
自分や身近な人のこころの健康を考える上で、少しでも参考になれば幸いです。
「解離」とは、本来つながっているはずの意識や記憶、感情、知覚、身体感覚などが
一時的に切り離される現象を指します。
これによって、自分の体を外から見ているような感覚(離人感)や
大切な記憶が抜け落ちてしまう(健忘)といったことが起こります。
例えば、ある特定の記憶だけが思い出せなくなることや
辛い出来事がまるで今この瞬間に再体験しているかのように感じられる「フラッシュバック」
さらには自分の身体から抜け出して遠くから自分を見ているような
「体外離脱体験」などがあげられます。
こうした症状が一時的なものであれば「誰にでもあること」として済まされることもありますが
日常生活や社会生活に深刻な影響を与えるような場合には
「解離性障害」と診断されることになります。

解離性障害の正確なメカニズムは、まだ完全には解明されていません。
しかし、多くのケースにおいて
強いストレスや「トラウマ(心的外傷)」の経験が関与していると考えられています。
心的外傷には、大きな災害や事故、暴力、戦争体験などの一過性のものから
幼少期の性的虐待やネグレクト(育児放棄)、長期にわたる家庭内暴力など
慢性的に続くものまでさまざまです。
人はこのような強い苦痛や恐怖にさらされたとき、自分を守るための防衛反応として
意識の一部を切り離したり、自分自身から感情を遠ざけたりすることがあります。
これは無意識のうちに行われる自己防衛の一種であり
結果として解離症状へとつながる可能性があります。
解離性障害にはいくつかのタイプがあり
それぞれに特徴的な症状があります。以下に代表的なものを紹介します。
解離性健忘
強いストレスをきっかけに、特定の出来事の記憶が思い出せなくなる症状です。
数日以内に自然と記憶が戻ることもありますが
なかには長期間にわたって記憶が回復しないこともあります。
忘れている記憶が重要な内容であるほど、生活に支障をきたすことが多くなります。
解離性遁走(とんそう)
突然、自分が誰であるかという感覚(アイデンティティ)を失い
日常生活を放棄して遠くへ行ってしまうような状態です。
本人にはその間の記憶がないことが多く
周囲から見ると「突然失踪した」ように見えることもあります。
強い職場のストレスや人間関係の苦しさなどが背景にある場合もあります。
解離性同一性障害(DID)
いわゆる「多重人格」として知られる症状で
ひとりの人の中に複数の人格が存在する状態です。
ある人格が表に出ている間は、他の人格についての記憶がないことが多く
生活が混乱することがあります。
この障害は、慢性的な心的外傷、特に幼少期の性的虐待などと深い関係があるとされ
複雑型PTSDとの関連も指摘されています。
離人症・現実感喪失症
自分の身体や感情が他人事のように感じられたり
現実感が薄れてぼんやりした世界にいるように感じたりする状態です。
まるで夢の中にいるかのような、不思議な感覚が続きます。
自分自身が「現実から浮いている」と感じることから、強い不安や孤独感を伴うこともあります。

解離性障害の診断は、医師による面談や心理検査を通じて行われます。
診断が難しいことも多く、他の精神疾患と見分けるためには、専門的な知識と時間が必要です。
治療では、主に以下のような方法がとられます。
1. 薬物療法
解離性障害に直接効く薬は存在しませんが
不眠や不安、うつ症状といった二次的な症状に対しては
抗うつ薬や抗不安薬などが用いられることがあります。
これにより、生活の質を保ちながら、心理療法に集中できる環境を整えることができます。
2. 心理療法・カウンセリング
解離性障害の治療の中心となるのは、心理療法です。
トラウマに向き合う力を養い
自分の感情や記憶を安全に受け止められるようにすることが目標となります。
カウンセラーとの信頼関係が非常に重要で、時間をかけてじっくりと進めていく必要があります。
3. 周囲の理解とサポート
患者さんの回復には、家族や友人、職場など周囲の理解と協力が欠かせません。
本人の体験を否定せず、焦らず、安心できる環境を整えることが、治療の大きな助けとなります。
解離性障害は決して「治らない病気」ではありません。
確かに治療には時間がかかることもありますが、適切な支援を受けながら
少しずつ症状をコントロールし、日常生活を取り戻していくことが可能です。
大切なのは、自分のペースを大切にしながら、焦らず、一歩一歩進んでいくこと。
そして、ひとりで抱え込まず、専門家や信頼できる人に相談する勇気を持つことです。
解離性障害は、心に深い傷を抱えた人が、自分自身を守るために起こす反応のひとつです。
その背景には、誰にも言えないような苦しさや悲しさが隠れていることも少なくありません。
この病気を正しく理解し
苦しんでいる人が「ひとりじゃない」と感じられる社会であることが
回復への第一歩につながります。
もし、あなた自身や身近な人が解離性障害かもしれないと思ったら
どうか早めに専門機関へ相談してください。
心の声に耳を傾けながら、無理をせず、自分らしく生きていくための一歩を踏み出しましょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。