「うつ病で睡眠薬を飲んでいるのに、眠れない──どうして?」
このような悩みを抱える方は少なくありません。精神科外来でも非常に多く寄せられる相談の一つです。
結論からお伝えすると、睡眠薬を使っても眠れない原因は人それぞれ異なります。そして、その原因に応じて適切な対策も変わってきます。本記事では、「うつ病における不眠」について、精神科医の視点からわかりやすく丁寧に解説し、睡眠が取れない背景とその対処法について3つの観点からご紹介します。

うつ病は、脳の働きに一時的な不調が生じる病気であり、気分の落ち込みだけでなく、さまざまな身体的・精神的症状を伴います。その背景には、脳内の神経伝達物質──特に「セロトニン」の不足が関係しているとされています。
その中でも、不眠症状はうつ病の代表的な症状の一つです。実際、うつ病と不眠症はしばしば併発し、互いに影響し合います。不眠が長引けばうつ病も悪化しやすく、逆にうつ病が重ければ不眠も強まる傾向があります。そのため、双方の治療は切り離せず、注意深く取り組む必要があります。
精神科では不眠に対して、以下の3段階で治療を行うのが基本です。
このように、いきなり強力な薬に頼るのではなく、まずは生活リズムや習慣の見直しを行うことが推奨されます。

睡眠薬を服用しても効果が得られない場合、実際には生活リズムが大きく乱れているケースが多く見受けられます。たとえば、昼夜逆転の生活や、夕方に昼寝をしてしまうと、夜間に眠気が来なくなることがあります。
また、カフェインやアルコールの過剰摂取、日中に体を動かさないこと、そして就寝前のスマートフォン使用や考え事が習慣になっていることも、不眠を助長する要因です。
生活リズムが整ってくることで、薬に頼らず自然に眠れるようになる方も少なくありません。
睡眠薬を使用しても効果が得られない場合、その薬が自分に合っていない可能性もあります。薬の量が少なすぎたり、睡眠パターンに合っていなかったりすることも原因の一つです。
たとえば、「寝つきが悪い人」には即効性のある短時間型の薬、「途中で目が覚めてしまう人」には持続時間の長い薬が適しています。
重要なのは「焦って頻繁に薬を変えすぎない」ことです。過度な増薬・変薬は、かえって症状を不安定にさせる恐れがあります。薬は慎重に少しずつ調整していくことが望ましいです。
うつ病が重度の場合、睡眠薬を用いても不眠が続くケースもあります。これは、うつ病そのものが不眠を強める要因となっており、睡眠薬の効果を打ち消してしまうからです。
また、それでも状態が改善しない場合には、「入院による治療」が選択肢となることもあります。
「薬を使っても眠れない」「生活面を整えても改善が見られない」──このような場合は、入院して環境を整えながら治療に専念するという方法もあります。
入院によって医師の管理下で薬物調整ができることに加え、生活リズムを強制的に整えることが可能になります。1〜2ヶ月ほどの入院で状態が落ち着くケースも多く見られます。無理に自宅で耐えるよりも、専門的なケアを受けることが回復への近道となることもあるのです。
「うつ病で睡眠薬を飲んでも眠れない」という問題は、非常に多くの方が直面する困りごとです。
しかし、その原因は単純なものではなく、生活リズムや薬の選択、うつ病の重症度など、さまざまな要因が絡み合っています。
重要なのは、焦らず一つずつ原因を見極めながら対策を進めていくことです。
心身の回復には時間がかかることもありますが、少しずつでも改善の道を歩むことで、必ず眠れる日々が戻ってきます。決して一人で抱え込まず、専門家と一緒に取り組んでいきましょう。