「境界知能(きょうかいちのう)」という言葉を聞いたことはありますか?
これは、IQ(知能指数)が70〜84の間にある人々を指す用語です。軽度の知的障害と一般的な知能の範囲との“あいだ”に位置することから、「境界領域知能」とも呼ばれています。
境界知能の人々は、学習や社会生活においてある程度の支援を必要とすることが多いものの、見た目や日常会話の中では「普通」と見なされることが多く、その困難さに周囲が気づきにくいという現実があります。
驚くべきことに、境界知能に該当する人の割合は、人口の約14%、つまり7人に1人とされています。これは、35人の学級に5人程度の割合で存在する計算になります。にもかかわらず、社会全体での認識は低く、十分な支援も整っていないのが現状です。
本記事では、境界知能の特徴や診断方法、発達障害との違い、そして社会的な課題や必要な支援について、丁寧にご紹介していきます。

境界知能の人は、幼少期には特に目立った特性が見られず、健常な発達をしているように見えることが多いです。そのため、保護者や教育者が気づきにくいという特徴があります。
しかし、小学校に進学して勉強が始まると、徐々に以下のような困難が現れてきます。
こうした学習面での困難が誤解され、「やる気がない」「サボっている」と評価されてしまうことも少なくありません。実際には、一生懸命取り組んでいても、他の子どもたちと同じ成果が出にくいという、見えにくい努力と苦労を抱えています。
さらに、境界知能の人々は日常生活の指示には従えるため、対人関係や会話においても一見問題がないように見えます。しかし、自己管理が苦手であったり、長期的な計画を立てることが難しかったりする場合もあり、思春期や成人期に向かうにつれて、その困難さが顕著になります。

境界知能は、正式な「診断名」ではありません。そのため、診断を受けても福祉的な支援につながらない場合が多く、早期に気づいてもサポート体制が不十分なのが実情です。
検査の際には、主に以下のような知能検査が用いられます。
5歳から16歳11か月までの子どもが対象。
「言語理解」「知覚推理」「ワーキングメモリ」「処理速度」の4つの指標から総合的な知能を測定します。
2歳から成人までが対象。
子どもが関心を持ちやすい教材を使用して、幅広い年齢層で実施可能です。
「姿勢・運動」「認知・適応」「言語・社会」の3領域を評価し、発達の全体像をつかむことができます。
16歳以上が対象で、大人の知的能力や処理能力を細かく測定できる検査です。
これらの検査を通じて、IQ70〜84に該当する場合に「境界知能の可能性がある」とされます。ただし、先述の通り、境界知能自体は「障害名」ではないため、診断後に受けられる支援には限りがあります。

知的障害とは、IQが70未満の場合に診断され、軽度(IQ50〜70)、中度(IQ35〜50)、重度(IQ20〜35未満)、最重度(IQ20以下)と分類され、福祉や教育の支援対象になります。
一方、発達障害とは脳機能の偏りによる特性で、IQの高低に関係なく診断されるものです。自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、学習障害(LD)などが代表的で、得意なことと苦手なことの差が大きいことが特徴です。
境界知能と発達障害の主な違いは、境界知能がIQの数値に基づいて分類されるのに対し、発達障害は行動や認知の特性に基づいて診断される点です。
また、発達障害の「グレーゾーン」は、診断基準を満たさないが傾向がある状態を指し、IQの高低とは直接関係しません。

境界知能の人々は、知的障害のような明確な支援制度がないまま、普通級で学び、社会に出ていくケースが多くあります。結果として、以下のような問題に直面しやすくなります。
特に青年期以降、自己肯定感の低さやストレス耐性の弱さが顕著になりやすく、失敗体験を通じて「自分には何もできない」と思い込んでしまうこともあります。
また、福祉的支援の対象外であることから、就労支援や生活支援につながる道が極端に少ないという問題もあります。

境界知能に該当する人々が、自分らしく生きていけるためには、周囲の理解と社会の仕組みが必要です。まず第一に必要なのは、「気づくこと」。
境界知能の特徴や困難さを知っておくことで、子どものうちに適切な支援や配慮を行うことが可能になります。
さらに、以下のような環境整備も求められます。
境界知能の人々の多くが、家庭や経済環境、心の問題など、複合的な困難を抱えていることも少なくありません。そうした背景を知ることで、支援のあり方は大きく変わっていくはずです。
私たちの社会には、目立たないけれど確かに存在する“困難さ”があります。境界知能は、そのひとつです。診断がつきにくく、支援が届きにくいからこそ、理解と配慮が必要とされています。
「できない」ことを責めるのではなく、「どうすればできるようになるか」を一緒に考える。そんな姿勢が、境界知能の人々の未来を明るく照らす一歩になります。
私たち一人ひとりが、正しい知識とあたたかいまなざしを持つことが、誰もが生きやすい社会づくりにつながっていくのではないでしょうか。