発達障害は遺伝するのか?──「生まれつき」と「環境」の関係を考える

今回のご質問は「発達障害は遺伝しますか?」というものです。親として、あるいはご自身や身近な人が診断を受けた経験を持つ方として、この疑問を抱かれる方は少なくありません。

結論から申し上げますと、「発達障害は遺伝的要素が強いものの、単純な遺伝ではありません」というのが現時点での医学的な見解です。

では、発達障害とは何か、そして遺伝との関係はどのようなものなのかを、丁寧に整理していきましょう。


発達障害とは──ASDとADHDを中心に

発達障害とは、生まれつきの脳の特性により、行動や対人関係、注意力などに特定の困難を抱える状態を指します。代表的なものには、以下の2つがあります。

1. ADHD(注意欠如・多動症)

ADHDは「不注意」「多動性」「衝動性」の3つの特徴を持つ発達障害です。忘れ物が多い、落ち着きがない、思いつきで行動してしまうといった行動が見られることが多く、日常生活や学業、仕事において支障が出ることがあります。

2. ASD(自閉スペクトラム症)

ASDは「対人関係の困難さ」「強いこだわり」「感覚の過敏さ」などを特徴とする発達障害です。場の空気を読むことが苦手であったり、特定のルールや習慣に強くこだわる傾向が見られることがあります。

これらの特性は、幼少期に気づかれることも多いですが、大人になってから診断を受けるケースもあります。薬で完治するものではないため、特性に合わせた環境調整や本人・周囲の理解が重要になります。


遺伝と発達障害の関係

遺伝と発達障害の関係

では、ここから本題である「遺伝」との関係について詳しく見ていきましょう。

発達障害は、「環境によって引き起こされるものではなく、生まれつきの脳機能の偏りである」という点が大きな特徴です。そのため、発症の要因としては遺伝的要素が大きいと考えられています。

研究によると、発達障害に関しては、遺伝要素が8割以上を占めるとされ、残りの1〜2割が環境要因と考えられています。しかも、この環境要因の多くは、出生前の胎児期におけるもの(例:妊娠中の栄養状態やストレス)であり、生まれた後の育て方や家庭環境が主な原因となることは少ないとされています。


「遺伝=親のせい」ではない

ここで大切なのは、「遺伝」と言っても単純に「親から子へと受け継がれるもの」だけではないという点です。

発達障害の遺伝的要因は、複数の遺伝子が関与する「多因子遺伝」であり、単純なメンデルの法則のように1つの遺伝子で決まるわけではありません。さらに、両親には見られない突然変異的な要素が影響することもあるのです。

たとえば、一卵性双生児の研究では、片方が発達障害の診断を受けると、もう一方も8〜9割の確率で同じ診断を受けると報告されています。これは遺伝の影響の大きさを示していますが、同時に環境要因も完全には無視できないことも意味しています。

つまり、「親に似ているから」という単純な理由で遺伝を語ることはできず、発達障害の発現には複雑な要素が重なっているのです。


遺伝するのは「障害」ではなく「傾向」

さらに重要なのは、「遺伝するのは発達障害そのもの」ではなく、「傾向」や「特徴」であるという点です。

具体的には、以下のような特性が遺伝的に伝わる傾向があります。

  • 思考や行動のパターン
  • 感覚の過敏さや鈍感さ
  • 対人関係での傾向(共感しにくい、人と距離を取りやすい など)
  • 強いこだわりの傾向
  • 脳の情報処理の仕方やセロトニン系の状態 など

これらの特徴が複数組み合わさり、環境との相互作用を通して「発達障害」と診断される状態に至ることがあります。


「遺伝=どうにもならない」ではない

遺伝=どうにもならない」ではない

遺伝と聞くと、「変えられないもの」「どうしようもないもの」と感じてしまうかもしれません。しかし、遺伝的傾向があるからといって、対策ができないわけではありません。

特に重要なのは、早期発見と早期支援です。

・発達障害の二次障害(うつ病、不安障害など)は、適切な環境調整と支援によって予防・軽減できる
・本人の特性に合わせた療育や教育によって、社会適応力を高めることが可能
・家族や周囲の理解が深まることで、ストレスや誤解を減らすことができる

遺伝的な傾向があっても、早い段階での対応によって、生活の質を大きく向上させることができるのです。


「遺伝」を責める道具にしないために

発達障害と遺伝の関係を理解するうえで、もう一つ大切なのは、「遺伝」という言葉が時に人を傷つける刃にもなりうる、ということです。

・「親のせいだ」と責める
・「自分のせいで子どもに…」と自責の念にとらわれる
・「遺伝だから仕方ない」と諦めてしまう

こうした考え方は、誰の心も救いません。

むしろ、遺伝についての誤解を解くことが、家族関係の軋轢を和らげ、より前向きな支援や関係性を築く助けとなるはずです。


まとめ:遺伝と上手に付き合う視点を

発達障害は生まれつきの脳の特性に基づくものであり、環境要因の影響は比較的小さいとされています。そして、広い意味での遺伝的要素が強く関与していることが研究から示されています。

しかし、遺伝とは「親のせい」「どうしようもないこと」という意味ではありません。多くの因子が絡み合い、時には突然変異も関与しながら個々の特性が形作られていきます。

だからこそ、できることはたくさんあります。早期の支援、正しい知識、そして周囲の理解。これらを積み重ねることで、発達障害を持つ方の人生は大きく変わる可能性があります。

「遺伝だからこそ、できることがある」

そんな視点を大切にしていけたらと思います。