うつ病のときに避けたい5つのこと

―焦りが招く落とし穴とその対策―

うつ病の治療には、どうしても時間がかかるものです。少しずつ良くなっているように思えたかと思えば、また気分が沈み、焦りや不安が募る――そんな波を経験する方も少なくありません。焦る気持ちは自然なことですが、時にその焦りが逆効果となり、症状を悪化させてしまうこともあります。

本記事では、うつ病の治療中に「やってはいけない5つのこと」と、その背景にある心理、具体的な対策について丁寧に解説します。


うつ病とは?:こころと体の深い不調

うつ病とは、単なる「気の持ちよう」ではなく、脳内の神経伝達物質、特にセロトニンなどの不足が関係するとされる“脳の不調”です。主な治療法としては、休養薬物療法精神療法の三本柱があります。

主な症状

  • こころの症状:落ち込み、意欲の低下、不安、集中力の低下など。
  • からだの症状:不眠、倦怠感、自律神経の乱れ(動悸や胃の不調など)。
  • 行動の変化:人と関わるのが億劫になったり、声が小さくなるなど外から見てもわかる変化。

治療の3段階

  1. 急性期:症状が重く、休養が最優先。
  2. 回復期:体調が徐々に改善。無理のないリハビリが始まる。
  3. 再発予防期:社会復帰を進めながら、再発を防ぐ。

うつ病は、一直線に良くなることは少なく、「良くなった」と思った矢先に後戻りすることもあります。この回復の波の中で、不安や焦りが大きくなり、それが時に治療の妨げとなってしまうのです。


焦りは逆効果:うつ病治療の落とし穴

うつ病の治療中には、「早く治したい」「元の生活に戻りたい」という思いから焦ってしまうことがあります。しかし、うつ病の背景にはストレス反応だけでなく、脳機能の調整異常があります。だからこそ、時間が必要なのです。

焦りはしばしば、「早く元気になろうとする行動」を引き出しますが、その行動が結果として悪化の原因になってしまうことがあります。


うつ病のときやってはいけない5つのこと

1.考えすぎる

うつ病になると、「このままでいいのか」「なぜ自分はこうなったのか」と、繰り返し考えてしまう傾向があります。これは「反芻(はんすう)思考」と呼ばれ、脳内で同じ思考がぐるぐる回り続け、気分をさらに落ち込ませてしまいます。

対策

  • 反芻思考を「悪い癖」と認識する。
  • 考えすぎそうになったら、意識的に別のことに集中する(軽い運動や読書、音楽など)。
  • 「考えること=努力」と錯覚せず、あくまで不安の副産物であると認識する。

2.薬を自己判断でやめる

「もう治った気がする」「副作用がつらい」などの理由から、自己判断で薬を中断してしまう人も少なくありません。しかし、薬の効果は緩やかに現れるため、やめてからしばらくして症状が再燃することが多く、非常に危険です。

よくある理由

  • 薬が効いている実感がない。
  • 副作用がつらい。
  • 薬を飲んでいること自体が「病気だと認めている」ようで辛い。

対策

  • 主治医としっかり相談しながら調整を進める。
  • 薬に対する葛藤は、「うつ病をどう受け止めるか」という心理的課題が背景にあることが多い。必要であれば心理的なサポートも活用する。

3.無理をする

「早く元通りの生活を取り戻したい」と焦るあまり、まだ体調が整っていないのに仕事を再開したり、生活のペースを急激に上げてしまう人がいます。しかし、これは症状の再悪化や治療の長期化を招く危険な行為です。

無理の例

  • 一気に家事や外出を増やす。
  • 職場復帰を急ぐ。
  • 薬を減らそうとする。

対策

  • 「今日はできたこと」に目を向ける。
  • 焦りの背景にある不安を受け止めつつも、一歩距離を置いて冷静に行動する。
  • 無理をした翌日にガクッと調子が崩れるサインを見逃さず、そこから学ぶ。

4.人と比べる

SNSや職場の同僚、友人など、周囲と自分を比べてしまい、「自分だけが取り残されている」と感じてしまうことがあります。特に症状が改善してくる回復期には、人との比較が強まりがちです。

よくある比較

  • うつ病にならずに活躍している同僚との比較。
  • SNSで充実した生活を送っている他者の投稿。
  • 「病気にならなかった自分」との比較。

対策

  • 他者との比較をやめ、自分の中での「小さな改善」に注目する。
  • 情報の取り入れ方を見直し、煽るようなSNSや人物との距離をとる。
  • 自分なりの「これからの生き方」を再確認する。

5.生活習慣を乱す

うつ病の改善には、「生活リズムの安定」が非常に重要です。しかし、不安や焦りが強くなると、夜ふかしや食事の偏り、アルコールの過剰摂取といった生活習慣の乱れが起きやすくなります。

生活の乱れがもたらす悪影響

  • 睡眠の質の低下により、気分の安定が崩れる。
  • 飲酒や過食が一時的な逃避となり、結果として悪化。
  • 慢性化や再発リスクが高まる。

対策

  • 就寝・起床時間をなるべく一定に保つ。
  • 夜はリラックスできる時間を意識的に設ける(入浴・ストレッチ・呼吸法など)。
  • 長期的に悪影響となる習慣は、少しずつでも見直していく。

おわりに:うつ病とともに歩むという姿勢

うつ病は、目に見えない病気であるだけに、周囲からの理解を得づらく、自分自身を責めてしまいやすい病でもあります。しかし、うつ病は「治す」というより「整えていく」病です。焦らず、少しずつ、自分のペースで回復していくことが大切です。

本記事で紹介した「やってはいけない5つのこと」は、すべてに共通して「不安や焦りに飲み込まれた行動」である点が特徴です。その感情を否定せず、認めたうえで距離をとる――その姿勢こそが、うつ病と上手に向き合う第一歩となるでしょう。