WAIS検査でわかること・わからないこと

1. 発達障害とWAIS検査

発達障害とは

発達障害とは、生まれつきの脳機能の特性により、日常生活や人との関わりにおいて困りごとを抱えやすい状態を指します。代表的な発達障害には、自閉スペクトラム症(ASD)注意欠如・多動症(ADHD)があります。

これらの障害は、幼少期に周囲の大人から気づかれることが多いですが、大人になってから初めて診断されるケースも少なくありません。発達障害は病気ではないため、基本的に「治す」というよりは、その人の特性を理解し、本人や周囲がうまく付き合っていくことが大切です。薬による治療では症状の一部が緩和される場合もありますが、根本的な「完治」ではありません。

WAIS検査とは

WAIS(ウェイス)検査は、成人を対象とした代表的な知能検査です。子ども向けにはWISC(ウィスク)という検査があり、内容は年齢に応じて構成されています。現在の最新版は「WAIS-IV」(第4版)で、約2時間かけて検査員と1対1で行います。

WAIS検査では、いわゆる「IQ(知能指数)」だけでなく、複数の側面から知的能力のバランスを見ることができます。この検査は、特性を客観的にとらえる上で有効ですが、単独で診断ができるものではありません。あくまで、診断の一部を補う道具として使われます。

2. WAIS検査で「わかること」

知的能力の全体像

WAIS検査では、知的能力の全体的な傾向が数値として示されます。最も基本となるのは全検査IQ(FSIQ)で、これは平均が100、標準偏差が15という基準で評価されます。

また、全体的なIQだけでなく、以下の4つの領域に分けた「指標得点」が出されます。

  • 言語理解(VCI):言葉に関する理解や知識、言語的推理力
  • 知覚推理(PRI):視覚情報の処理力や空間把握、論理的思考力
  • ワーキングメモリー(WMI):短期記憶や注意の持続、情報の保持と操作
  • 処理速度(PSI):簡単な作業をどれだけ素早く正確にこなせるか

これらの数値は、それぞれの分野における「得意・不得意」の傾向を知るための手がかりとなります。

得意と不得意のバランス

WAIS検査の大きな特徴のひとつが、知的なバランスの差(ばらつき)を捉える点です。

例えば、言語理解の得点が高くても、処理速度が極端に低いというように、同じ人の中でも領域によって大きな差が出ることがあります。このようなばらつきが大きい場合、発達障害の可能性を示すヒントになることもあります。

特に発達障害の方は、視覚優位/聴覚優位や、言語優位/非言語優位といった傾向が顕著なことがあります。こうした結果から、日常生活や仕事、学習において困りごとが生じやすい場面を予測することができます。

ただし、ばらつきがあるからといって必ず発達障害とは限らず、あくまで診断を補う一つの材料として考える必要があります。

客観的な行動の特徴

WAIS検査は2時間ほどかかる長時間の検査であるため、被検者の集中力の持続や反応の仕方などにも特徴が現れることがあります。

以下に、検査中に見られる特徴の例を挙げます。

ADHDの可能性を示唆する行動例

  • ケアレスミスが多い
  • 質問から話題がずれやすい
  • 間違った際に衝動的な反応を示す

ASDの可能性を示唆する行動例

  • 細かい部分に過剰にこだわる
  • 質問の意図を誤解して答える
  • 表情や声のトーンに独特の特徴がある

これらの行動は数値には表れにくいものの、検査者の観察を通じて診断の参考になることがあります。

3. WAIS検査で「わからないこと」

発達障害の「診断」はできない

WAIS検査だけで発達障害の診断を下すことはできません。あくまで、知能のプロフィールを示すものであり、発達障害の診断基準には直接関わりません。

発達障害の診断には、問診、病歴、行動観察など、多角的な情報の総合判断が必要です。その中で、WAIS検査のような心理検査は、客観的な視点を加える役割を果たします。

性格はわからない

WAIS検査では、得意・不得意の傾向は明確になりますが、性格や感情面の特徴まではわかりません。性格を把握するには、別の心理検査(例:ロールシャッハ・テストなどの投影法)を併用する必要があります。

ただし、これらの投影法にも解釈のばらつきがあるため、すべてを明らかにすることは難しいという限界があります。

創造性や予後までは評価できない

WAIS検査で評価できるのは、現在の知的能力の一部です。創造力、芸術的感性、動機づけ、情熱といった側面までは測定できません。

また、WAIS検査の数値からその人の将来の可能性(予後)を正確に予測することも困難です。知能指数(IQ)は参考にはなりますが、それがその人の「価値」や「能力」のすべてを決めるものではありません。

4. 発達障害の診断におけるWAIS検査の位置づけ

発達障害の診断は、医師による診察、病歴の聴取、行動観察などを通じて総合的に行われます。その中で、WAIS検査は、主観的な問診では捉えにくい知的特性を客観的に見るための一助となります。

また、診断の有無にかかわらず、WAIS検査の結果は、本人が自分自身の特性を理解し、よりよい生活を送るためのヒントにもなり得ます。たとえば、学習方法の工夫や、仕事での配慮の仕方などに役立つ情報が得られることがあります。

まとめ

WAIS検査は、成人の知的能力を多角的に測定するための代表的な心理検査です。最近では、特に大人の発達障害を理解するための重要なツールとして注目されています。

ただし、WAIS検査だけで診断が確定されることはなく、性格や創造力など測定できない要素も多くあります。診断の一部として、また自己理解の手がかりとして、適切に活用することが大切です。

知能指数の数値に一喜一憂するのではなく、自分の「得意」と「苦手」を知り、どうすればより生きやすくなるかを考えるためのヒントとして、WAIS検査は非常に有用な検査だと言えるでしょう。