統合失調症は、思考や感情、行動に深く関わる脳の働きに不調をきたす精神疾患のひとつです。幻聴や妄想といった典型的な症状が知られており、かつては「精神分裂病」とも呼ばれていました。
近年の医学や脳科学の進展により、発症メカニズムに関する研究は進んでいるものの、依然として明確な原因の特定には至っていません。
本記事では、統合失調症とはどのような病気かを改めて整理したうえで、考えられている原因、遺伝的要因との関係、そして予防の可能性についてわかりやすく解説していきます。
統合失調症は、脳の神経伝達のバランスが崩れることにより、現実との接点が希薄になっていく病気です。症状が進行すると、幻聴や妄想といった「陽性症状」、意欲や感情の低下といった「陰性症状」、さらに思考力や判断力の低下を含む「認知機能障害」が現れるようになります。
主に影響を受けるのは脳内のドーパミン系統であり、過剰なドーパミン活動が陽性症状の発現に関係していると考えられています。このため、抗精神病薬によって脳内のドーパミンのバランスを調整し、症状の緩和と再発予防を目指すのが治療の基本となっています。
加えて、社会復帰を目的としたリハビリテーション(デイケアや作業療法など)や、必要に応じた福祉サービスの利用も、長期的な回復にとって非常に重要です。

統合失調症の原因は未だ明確には解明されておらず、現在では複数の要因が関与する「多因子疾患」と位置づけられています。これまでに提唱されている主な仮説には、以下のようなものがあります。
① 脳機能の異常説
もっとも有力な説のひとつが、脳内の神経伝達物質の異常です。ドーパミンの過剰な働きに加え、セロトニンやグルタミン酸など他の神経伝達物質の関与も示唆されています。
これらの物質のバランスが崩れることで、思考や感情のコントロールに支障をきたすのではないかと考えられています。
ただし、なぜこれらの物質に異常が生じるのか、その根本的な原因は依然として不明です。
② 環境要因説
統合失調症の発症には、幼少期の逆境体験や家庭環境などのストレスが関与しているという説もあります。例えば、家庭内での葛藤や虐待、いじめなど、強い心理的ストレスを受けた経験がある場合に、発症リスクが高まる可能性があるとされています。
この説は直感的には理解しやすいものの、どの程度ストレスが発症に寄与しているのかについては、まだ研究段階であり、個人差も大きいとされています。
③ 遺伝的要因説
一卵性双生児の片方が統合失調症を発症した場合、もう片方も発症する確率は約30〜50%とされており、一般人口における発症率(約1%)と比較すると格段に高いことがわかっています。
このようなデータから、遺伝子の影響も無視できないことが示されています。
近年の研究では、統合失調症の発症に関与する可能性のある遺伝子変異もいくつか報告されていますが、具体的にどの遺伝子がどのように作用するのか、またどれほどの影響を持つのかは、いまだ明確になっていません。
④ 多因子疾患説(現在の主流)
これまでの研究を総合すると、統合失調症は単一の原因によって発症するのではなく、複数の要素が複雑に絡み合って引き起こされる「多因子疾患」として考えるのが現時点ではもっとも現実的です。
すなわち、遺伝的な脆弱性に加えて、成育環境やストレス、脳の発達過程などさまざまな要素が相互に作用し、ある閾値を超えた時に発症するというモデルです。
統合失調症が「遺伝病」であるかという問いに対しては、専門家の間でも意見が分かれるところですが、一般的には「完全な遺伝性疾患ではないが、遺伝的素因は存在する」と考えられています。
先述のとおり、家族や近親者に統合失調症の患者がいる場合、発症リスクは高まります。ただし、リスクがあるからといって必ずしも発症するわけではなく、むしろ多くの人は発症せずに人生を送っています。
また、「家族に統合失調症の人がいる」という事実があると、日常の中で不安や過度な警戒が生じやすくなり、早期に異変に気づくことが多くなるということも指摘されています。
このような理由から、遺伝的要素はリスクのひとつとして受け止めつつも、過度に不安視せず、冷静に見守る姿勢が大切です。

統合失調症を完全に予防する方法は現時点では存在しませんが、発症リスクを減らしたり、早期に対処することで重症化を防ぐことは可能とされています。
ここでは、実践的な対策を2つご紹介します。
対策① ストレスへの対処
前述のように、ストレスは統合失調症の引き金となる可能性があります。そのため、日常生活において心身の健康を保つためのセルフケアは重要です。十分な睡眠、バランスの良い食事、人間関係の見直しなど、ストレスを溜めこまない生活習慣が望まれます。
また、心が疲れていると感じたときには、早めに休息をとることや、信頼できる人に相談することも予防につながります。
対策② 早期発見・早期治療
統合失調症の発症を完全に防ぐことは難しいとしても、症状が軽いうちに気づいて治療を開始することで、長期的な予後を大きく改善できる可能性があります。特に、被害妄想や気分の不安定さといった前駆症状に注意を払い、少しでも異変を感じたら早めに専門機関へ相談することが勧められます。
治療を開始した後も、症状が落ち着いたからといって自己判断で通院や服薬をやめるのは危険です。再発を防ぐためには、医師の指示に従い、安定してからも継続的な治療を続けることが重要です。

統合失調症の原因は、脳内の神経伝達物質の異常や遺伝的な要素、ストレスなど、さまざまな因子が絡み合って発症すると考えられており、単一の原因によるものではありません。多因子疾患として捉えることが、現在ではもっとも妥当な理解とされています。
また、遺伝的な素因があることは否定できないものの、それだけで発症が決まるわけではなく、ストレス対策や早期発見といった取り組みによって予後を改善する余地は十分にあります。
心身のバランスを保ちながら、異変を見逃さず、適切なサポートを受けることが、統合失調症と向き合ううえでの重要な鍵となるでしょう。