発達障害の増加は悪いことですか?

はじめに

 「発達障害の増加は悪いことなのか?」という問いに対して、私は「偏見には注意が必要ですが、全体としては“良い面も多い”と捉えることができる」と考えています。

単純に「増えたから悪い」と判断するのではなく、その背景や影響、そして社会的な意味合いまでを含めて丁寧に見つめ直すことが必要ではないでしょうか。本記事では、発達障害の診断数が増加している理由や、それに伴う社会的な変化、そして今後の課題について考えていきたいと思います。

発達障害の「増加」とはなにか

発達障害の「増加」とはなにか

 まず、「発達障害が増えている」と言われる現象についてですが、これは文字通り“発達障害と診断される人が増えている”ということを指します。文部科学省の調査では、小中学生の約8.8%に発達障害の可能性があるという報告もあり、大人や女性の診断数も増加傾向にあるとされています。

しかし、この「増加」は、必ずしも“発達障害を持つ人が急に増えた”ことを意味しているわけではありません。むしろ、「これまで見過ごされてきた人々が、ようやく診断や支援の対象になってきた」という見方の方が、実態に近いのではないでしょうか。

診断が増えることのメリットとは

 診断数の増加は、実は多くの人にとって希望につながる出来事でもあります。特に、子ども時代に早期診断を受け、療育や支援を受けながら成長できることは、二次障害の予防や適応力の向上に大きく貢献しています。

また、成人してから診断を受けた方にとっても、自分の困りごとの背景を理解できることは、自己受容やセルフケアの向上につながります。就労移行支援の施設や、障害者雇用などの制度を活用しながら、社会復帰や自立を目指す方も増えています。

さらに、診断を受けることによって、長年にわたって適応に苦しんできた原因が明らかになることで、「どうして自分は生きづらかったのか」という疑問に答えが見つかり、心理的な安定を得る人も少なくありません。

見過ごされた人々と「重ね着症候群」

見過ごされた人々と「重ね着症候群」

 一方で、かつては発達障害の診断を受ける機会すらなかった人々も多く存在します。特に現在の中高年世代では、「変わり者」「空気が読めない人」とされ、家族や社会から孤立しがちだった方もいたでしょう。

中には、発達障害を背景に不適応を繰り返し、うつ病や依存症、人格障害など複数の精神的な問題が重なる、いわゆる「重ね着症候群」と呼ばれる状態に至った方もいらっしゃいました。こうした方々にとって、発達障害の診断や支援制度がもっと早く整備されていれば、より違った人生を歩めたかもしれません。

現在ではこうした複雑な状態に陥るケースは減ってきている印象があります。これは早期診断・支援体制の広がりの恩恵と言えるでしょう。

中高年における診断の難しさ

ここで触れておきたいのが、中高年層に対する診断のデリケートさです。明らかに発達障害の特性がみられる方であっても、年齢的な要因や既存の精神疾患との重なりなどから、新たな診断が意味を持ちづらいケースもあります。

また、「今さら診断されても…」という思いや、診断がこれまでの人生の価値を否定するように感じられることもあるため、慎重な対応が求められます。本人の希望や状況に応じて、無理に診断を進めないという選択もまた、尊重されるべきです。

増加にともなうデメリットや課題

 もちろん、診断数の増加がすべて良いことばかりではありません。ひとつには「過剰診断」のリスクが挙げられます。診断基準の拡大や、グレーゾーンを含めた広がりにより、本来は支援を必要としない人までが「障害者」とされてしまうこともあります。

さらに、診断を受けることで本人が自立心を手放してしまったり、周囲の偏見に苦しんだりするケースも見受けられます。特にネット上では「発達障害は甘え」「親の育て方のせい」など、科学的根拠のない偏見や誤解も少なくありません。

こうした偏見は、診断を受けた方の心を深く傷つけ、場合によっては自傷行為や引きこもりといった深刻な状況を引き起こすこともあります。支援体制だけでなく、社会全体での理解や配慮が求められています。

私たちができること

 発達障害の診断が増えるという現象は、「社会の中にある困りごとに光を当てる」大切な機会でもあります。これまで見過ごされてきた方に支援が届くようになり、多様な生き方が認められるようになるための、一歩なのです。

ただし、その一歩が確かなものとなるためには、「ラベルを貼るだけ」で終わらず、診断の先にある支援や配慮、そして周囲の理解が伴っていく必要があります。

誰もが「ちょっと変わっている」と言われても、自分らしく生きられる社会。その実現のために、私たち一人ひとりが正しい知識を持ち、偏見を手放し、支え合う姿勢が大切です。

おわりに

 発達障害の「増加」は、必ずしも悲観すべきことではありません。それは、「困っている人に支援が届く社会になってきた」という、ある意味では希望の兆しでもあるのです。

もちろん、診断の受け止め方は人それぞれであり、すべてがスムーズにいくわけではありません。それでも、私たちが理解を深め、寄り添い、適切な支援の輪を広げていくことで、誰もが安心して生きていける社会に一歩ずつ近づいていけるはずです。

このテーマを通じて、少しでも多くの方が「発達障害」について正しく知り、優しさを持って向き合えるきっかけになれば幸いです。