最近、SNSなどで「○○キャンセル界隈」といった言葉を目にすることがあります。なかでも「風呂キャンセル界隈」は多くの共感を集めていますが、これらの言葉は、実はうつ病と深く関わっているケースも少なくありません。
うつ病によって「やりたいけれど、どうしてもできない」ことが増えてしまう。それは、単なる怠けや甘えではなく、脳の機能がうまく働かなくなることに起因する、れっきとした症状なのです。
本記事では、うつ病によって引き起こされる「生活上のキャンセル」がどのようなもので、なぜ起こるのかを5つのケースに分けて解説していきます。うつ病への理解を深めるきっかけとして、ぜひ最後まで読んでいただけたら幸いです。
うつ病とは、脳の働きに不調が生じることで「気分の落ち込み」や「意欲の低下」などが長期間にわたって続く病気です。原因のひとつに、脳内の神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンの働きの低下があると考えられています。
うつ病の治療は「休養」「薬物療法」「精神療法」の3本柱が基本とされており、心身の回復には時間がかかることもあります。
うつ病の主な症状は、以下のように分類できます。
これらの症状が日常生活に強い影響を与える結果、「さまざまなことが“できなくなる”」という現象が起こります。ここからは、実際の具体例を見ていきましょう。
「お風呂に入りたいけれど、どうしても入れない」――そんな経験はありませんか? うつ病の方にとって、入浴という行動は決して簡単なものではありません。
入浴は「服を脱ぐ」「シャワーを浴びる」「身体を洗う」「乾かす」など多くの工程が必要で、思考力・段取り力が必要とされます。また、倦怠感や疲れやすさといった症状も相まって、行動に移すのが非常に困難になるのです。
衛生状態が悪化すれば、職場や人間関係への影響も避けられません。けれど、「入りたくても入れない」という人の背景には、心の病気があることを理解しておきたいものです。

洗濯は日常の中では小さな家事に見えるかもしれません。しかし、実際には「仕分け」「洗濯機をまわす」「干す」「取り込む」「たたむ」といった一連の工程を要します。
うつ病の症状として「思考力の低下」「倦怠感」「意欲の減退」があると、このような手順をこなすことが非常に難しくなります。また、身なりや他人の目に対する関心が薄れてしまうこともあり、結果的に洗濯が後回し、もしくは全くできなくなるケースもあります。
これが長期化すると、清潔感の低下が社会的な孤立を招く可能性もあるのです。

「部屋を片付けたいのに、手がつけられない」そんな状況が続くと、次第に部屋が散らかり、時には“ごみ屋敷”のようになってしまうこともあります。
片付けには集中力や思考力、そして「やるぞ」と決める意欲が必要です。うつ病ではこれらがすべて低下してしまい、どこから手をつけていいかわからず、気づけば部屋が手のつけられない状態になっていることも。
また、もともとADHD(注意欠如・多動症)の傾向がある人では、片付けの困難さがより顕著になります。ADHDによる「整理整頓の苦手さ」に、うつ病の「意欲・集中力の低下」が加わると、その影響はさらに深刻になります。
うつ病になると、食欲が低下してしまうことがあります。食べ物を目の前にしても「おいしそう」と思えず、何を食べたいかもわからず、結果的に食事を抜いてしまう――これが「ごはんキャンセル界隈」です。
これは単なる「ダイエット」や「面倒だから」ではなく、心の病が食欲という生理的な欲求にまで影響を与えてしまっている状態です。長期間続けば、栄養失調や体重減少、体調不良を引き起こす可能性もあり、注意が必要です。
そして、もうひとつ多くの人が見落としがちな「キャンセル」が、人とのやりとりです。LINEの返信、電話への応答、ちょっとした挨拶や雑談ですら、うつ病の方にとっては大きなハードルになります。
「誰かと関わるのが怖い」「返事を考えるのがつらい」――こうした感覚は、決して珍しくありません。そして、連絡を返せなかったことで「申し訳ない」「嫌われたかも」とさらに気持ちが落ち込むという悪循環にもつながります。
本記事で紹介した「キャンセル界隈」は、どれも日常の中で起こりうることばかりです。そしてそれは、本人の“甘え”ではなく、病気の影響による“できなさ”であることを理解することが、周囲の人に求められる姿勢ではないでしょうか。
もしもあなたの身近に、何かを「できなくなっている」人がいたら、そっと声をかけてみてください。そして、自分自身がそうなったときは、「できない自分」を責めすぎず、「いまは休むとき」と受け入れてみてください。
うつ病と向き合うことは、長くて、時に孤独な道のりです。でも、理解と支えがあれば、少しずつ前を向くことができるのです。