●「強度行動障害」とはどのような障害でしょうか?
「行動問題」とは、客観的に見てそのまま放置すると日常生活の営みや健康に悪影響を与える可能性のある逸脱した行動を指します。
この行動問題が持続し、その結果として社会生活への参加や健康管理が長期にわたって困難になる状態を「強度行動障害」または「チャレンジング行動」と呼びます。
具体的にどのような行動が含まれるかについては、厚生労働省の強度行動障害判定基準表によると、
自傷行為、他傷行為、こだわり行動、物を壊す行為、睡眠の乱れ、偏食、異食といった食事に関連する障害、多動、騒がしさ、パニック、放尿、便弄りなどの排泄に関する障害、
さらには粗暴な行為が挙げられています。このほかにも、重度・最重度の方では自己刺激行動や常同行動がよく見られます。
軽度の場合には、反社会的な行動が問題となることがあります。
●問題行動を減らすためには、原因を明らかにすることが重要です
生まれつき自傷や他傷、物を壊す、異食、パニックといった行動障害を示す人はそれほど多くありません。
これらの行動は、他者とのコミュニケーションを図ろうとする過程で生じることが多いのです。
近年では、行動障害が他者に対して何らかの要求を伝えようとする際、その要求がうまく伝わらない場合に頻繁に出現することがわかってきました。
これらの行動を一括して叱ったり注意したり、あるいは制止しようとすることは、その人が他者に要求を伝えようとする気持ちを摘み取ってしまうことになります。
もちろん、行動障害を示す人や周囲の人に身体的な危険が生じた場合には、そのような方法で応急的に対処することも必要です。
しかし、そのような対処方法では、行動障害を一時的に抑えることはできても、根本的な解決にはなりません。
もし行動障害を社会的に適切なコミュニケーション行動に置き換えることができるなら、その行動は減少していくと予測されます。

●コミュニケーションと行動障害の関係について
知的障害のある方や自閉症の方が示す、一般的に受け入れられにくい逸脱した行動の多くは、実は重要なコミュニケーション機能を果たしているということが、最近の研究で明らかになっています。
私たちが実際に彼らと接し、その行動を観察してみると、コミュニケーションに障害がある方の場合、自分の周囲の環境をその場で効果的に見通しを持ってコントロールする唯一の方法が、周囲の人に受け入れられないような逸脱した行動であることがわかります。
攻撃的な行動、自傷行為、常同行動やその他の逸脱した行動には、以下の5つの主要な機能があることが明らかになっています。それらは、
①手助けや注目を求めるため、
②困難な状況や活動から逃げるため、
③欲しいものを手に入れるため、
④嫌な出来事や活動を拒否するため、
⑤刺激を得るため、というものです。
●【パニック】心身の制御が効かない状態とは
発達に障がいがある方のパニックは、重大な危険が迫ったときなどに見られる、心身の制御が効かなくなる混乱した状態です。

具体的には「大声で泣き叫ぶ」「寝転がって手足をバタバタさせる」「自分を叩く」「壁に体をぶつける」「物を投げる」「物を壊す」といった状態が挙げられます。
これまで「かんしゃく」と呼ばれていた状態と同様のものです。
パニックは突然起こる印象が強いものですが、観察を続けていくと、どのような場面や文脈で起こるかを予測することも可能です。
また、パニックが起こった後の周囲の対応を分析することで、パニックの要因とその機能を推測することもできます。
参考として、随伴性に基づく機能的アセスメントが、パニックに対応する手立てを考えるためにまず行うべきことです。
すなわち、行動の前に何があったか、行動の後に何があったかを考えることが重要です。
●問題行動の原因は知的な発達度だけではありません
一般的に、行動障害のある方は話し言葉でのコミュニケーションが難しく、不適切な行動で自身の気持ちを表そうとします。
例えば、トイレに行きたい、お腹がすいた、喉が渇いたといった生理的な欲求さえも、適切に周囲に伝えることができずに、奇声を発したり、自傷・他傷行為や突然の徘徊などが起こる場合があります。
これらの行為は知的な発達度だけが原因ではなく、幼少期から認知レベルに応じた適切なコミュニケーション手段を獲得するための意図的な学習支援が行われてこなかったことが主な要因と考えられています。
しかし、大切なことは、成人期に達した今からでも、その手段を獲得することは決して遅くないということです。
また、本人が好きで周囲に迷惑をかけるような不適切な行動をとっているのではない、という理解が基本的な姿勢として必要です。
●障がい特性と問題行動との関係について
自閉症の方は些細なことで不安になりやすい性質を持っています。特に、見通しが持てないときや、予想と異なる展開が起こったときには、不安から混乱を招くことがあります。
突然のアクシデントや行事などのイレギュラーな事態が苦手なのは、このためです。彼らが示すこだわりは、この不安の裏返しであると言えます。
いつも同じ物を手にしたり、同じ順番に並べたり、手順を一定にしたり、好きなことに没頭したり、一番を目指したりすることで、不安定な世の中から自分を守っているように見えます。
活動を拒否したり、パニックを起こすときには、その原因が何かしらの不安である可能性を考えてみる必要があります。
知的障害を伴う広義の発達障害の方々の障害特性は、それぞれの発達障害の種類によって共通する特性が異なります。
例えば、自閉症と呼ばれる方々は、一般に視覚情報が聴覚情報よりも理解しやすいとされています。このような認知レベルの偏りに加え、
基本的な五感(視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚)の情報処理に特異性があり、極端に過敏であったり鈍感であったりと、バランスが崩れています。
そのため、日常生活で精神的なダメージを受けやすくなっています。支援を展開する際には、こうした障害特性を理解しつつ、個々の成長の中で培われた特性と発達レベルをアセスメントしていくことが求められます。
●「不適切行動」の改善に必要な考え方
知的障がいのある方は、環境に適応するための意思形成に制約があり、理解できないまま行動に移ることが多く、これが不適応行動として現れます。
例えば、おいしいご飯を食べたいという欲求がある場合、働いて賃金を得たり、レストランで順番を待ったり、食べたいものを選んだりすることが適応行動です。
しかし、空腹を我慢できずに隣のテーブルの人の食べ物を取ってしまったり、嬉しさのあまり大声を出してしまうことは不適応行動となります。
適応行動が理解できている場合でも、雨天時に花壇へ水をまいたり、状況に応じた応用が利かないこともあります。
知的障害は個人の知的機能だけの問題ではなく、地域社会の環境や文化的・風土的要因との相互作用を重視して考える必要があります。
各々が適切な環境設定と支援を受けることで、知的機能や適応行動が改善されるという考え方が大切です。
●行動障害における「精神科薬物療法の目的」
行動障害に対する「精神科薬物療法」の目的は、以下の3点に分類されます。

① 合併している精神科疾患の治療
・てんかん
・チックやトゥレット障害
・強迫性障害
・感情障害
・統合失調症など
② 極度の興奮やパニック、強度の自傷・他傷行為、激しい睡眠障害など、自他の安全に関わる状況への緊急的介入
③ 神経薬理学的背景をもつ行動異常の治療
・ドーパミン仮説
・セロトニン仮説
・オピオイド仮説など
対処に困難な状況では、医療機関に相談が持ち込まれることがよくありますが、そもそも医療だけで行動問題を解決することはできません。
薬物療法は生物学的安定性を高める手段であり、支援や療育の効果を高める一つの手段です。
適切な薬物療法と高度な支援・療育が組み合わされば、本来の行動や自発的な意思表示が可能となり、困難な行動障害でもやがて改善されていくでしょう。
●強度行動障害のある子どもを支援するすべての方へ
こだわりの強さや衝動的な行動、パニック、コミュニケーションが取りにくいといった特性は、親が言って聞かせたからといってすぐに改善するものではありません。
どんなに子どもの気持ちに寄り添っていても、周囲からしつけ不足だと責められたり、動きの激しい子どもから目が離せず、疲れ果ててしまうことが多いでしょう。
その結果、「私の向き合い方は正しいのだろうか」と、育児への自信を失いやすくなり、悩みが深まることもあります。
心身ともに余裕がない育児の中で、
「つい怒鳴ってしまった」「イライラをぶつけてしまう」「自分の言葉が子どもに響かない」「子どもの気持ちがわからない」「報われない気がする」と悩む親御さんも少なくありません。
そんな時は、自分を追い詰めず、子どものできないことよりも、できることに目を向けるようにしましょう。
そして、誰かに気持ちを打ち明けてみてください。頑張りすぎずに、できることに焦点を当てていきましょう。
読んで頂き有難うございました