病院で看護師として働いていると、「ESBL(イーエスビーエル)」という言葉を耳にすることがあるかと思います。特に感染管理が重要な患者さんを担当している際には、「ESBL産生菌だから感染対策をしなければならない」と漠然と理解している方も多いのではないでしょうか。しかし、「ESBLとはそもそも何なのか?」と疑問に思ったことはありませんか?
感染対策は現場の看護師にとって欠かせない業務ですが、背景や正しい知識を理解することで、より適切な対応ができるようになります。この記事では、新人看護師の皆さんにも分かりやすく、ESBL産生菌の特徴や感染対策、そして日々の看護業務で意識すべきポイントについて詳しく解説していきます。

「ESBL」という名前から、細菌の種類だと思われることがありますが、実際には細菌そのものの名前ではありません。ESBLとは「基質拡張型βラクタマーゼ(Extended-Spectrum β-Lactamase)」の略称であり、これは細菌が産生する酵素の一つです。
この「βラクタマーゼ」とは、抗菌薬の効果を弱める酵素です。
• βラクタム系抗菌薬:セフェム系やペニシリン系の抗菌薬は「βラクタム環」という化学構造を持ち、細菌の細胞壁合成を阻害することで効果を発揮します。
• βラクタマーゼの働き:細菌が産生するβラクタマーゼは、この「βラクタム環」を分解し、抗菌薬の効果を無効化してしまいます。
ESBL産生菌は、特に大腸菌や肺炎桿菌などの腸内細菌が持つことが多いです。これらの細菌はβラクタマーゼを産生することで抗菌薬耐性を示し、感染症治療を困難にします。
さらに注意が必要なのは、ESBL産生菌が他の細菌に耐性を拡散する能力を持つことです。これを「水平伝播」と呼びます。細菌同士が遺伝子を交換することで、耐性遺伝子が他の細菌へと伝わり、感染が広がってしまうリスクがあるのです。
ESBL産生菌は抗菌薬が効きにくくなるため、感染症治療が難しくなります。適切な治療が遅れると、感染症が重症化する恐れがあります。特に免疫力の低い高齢者や小児、基礎疾患を持つ患者さんにとっては致命的なリスクになることもあります。
そのため、看護師はESBL産生菌の特性を理解し、感染拡大を防ぐための対策を日ごろから徹底する必要があります。

ESBL産生菌の主な感染経路は接触感染です。腸内細菌が多いことから、特に次のようなケアの場面で注意が必要です。
ESBL産生菌は患者さんの検査結果で検出されていなくても、潜んでいる可能性があります。「大丈夫だろう」と油断せず、すべての患者さんに対して感染対策を行う意識が重要です。
標準予防策は、すべての患者さんに適用する感染対策の基本です。中でも「手指衛生」は最も重要なポイントです。
手指衛生は次の5つのタイミングで行うことが推奨されています。
ESBL産生菌の感染対策として、以下の対応が求められます。
• 個人防護具(PPE)の使用:手袋やガウンを着用し、ケア後は速やかに廃棄・交換します。
• 患者の環境管理:ベッド柵や車椅子、ナースコールなど、患者さんが触れる場所を定期的に消毒します。
• 可能であれば個室管理:感染拡大リスクを最小限にするため、可能であれば個室での対応が推奨されます。
ESBL産生菌にはアルコール消毒が有効です。こまめなアルコール手指消毒を徹底することで、手指を介した伝播を防ぐことができます。
ESBL産生菌は、抗菌薬に耐性を示す細菌であり、その感染拡大を防ぐためには、看護師一人ひとりの意識と行動が非常に重要です。
日々の看護業務において感染対策は患者さんの命を守るだけでなく、自分自身や他の医療スタッフを守る行為でもあります。
ESBL産生菌に対する理解を深め、適切な対策を実践しながら、安全で質の高い看護を提供していきましょう。